ドイツの老舗リコーダーメーカー、
モーレンハウエル社製、
デンナーシリーズのグレートバスリコーダーです。
材質はペアーウッド(梨)です。
2022年に購入しました。
キュングの
スペリオのニック式グレートバスと比べると、こちらは一直線のフォルム。
頭部管のヘッドキャップ側面から、吹き込み管を差し込めるようになっています。
実は、このヘッドキャップの内部構造にこそ、このリコーダーの最大の特徴があります。
一般的なヘッドキャップ内部には、ブロックとの間に、ある程度の空間があり、そこに呼気を一旦溜め込んだ後、一定の圧力でウィンドウェイに送り込む構造になっています。
この方式は、ウィンドウェイに導かれる空気の流量が安定するため、ピッチを安定させやすく、加えて、吹き込み管のおかげで、大きな楽器でも無理のない姿勢で構えることができるというメリットがあります。
反面、呼気が音になるまでのタイムラグは大きくなりがち。
この点は、直吹きタイプに軍配があがります。
では直吹きタイプは万能かというと、実はそうでもありません。
敏感に反応するということは、わずかな呼気の乱れがそのまま音に反映されてしまうということでもあります。
その分、コントロールは難しくなるのです。
大型管における「吹き込み管か、直吹きか」の好みは、このあたりのどれを優先するかによって分かれるのだと思います。
その点、このデンナーのグレートバスのヘッドキャップは、非常にユニークな構造をしています。
ヘッドキャップを裏返してみると、そこに差し込まれる頭部管のブロック面の高さぎりぎりまで、天井面が下げてあるのがわかります。
その高低差、わずか1ミリ。
ヘッドキャップ天井面には、吹き込み管からウィンドウェイまでの、最短距離の気道が掘ってあるだけで、ほかに呼気が溜まるスペースがほとんどありません。
つまり、吹き込み管からウィンドウェイまでがほぼダイレクトに直結される構造になっているのです。
これにより、このグレートバスは、吹き込み管タイプであるにもかかわらず、まるで直吹きタイプのような反応の速さを実現しています。
それでいて、吹き込み管の内容積分だけは呼気を溜め込む空間になるので、良い塩梅の「遊び」も生まれ、これが音の安定性につながっています。
ちょうど、吹き込み管タイプと直吹きタイプのいいところ取りをしたような印象です。
実際に吹いてみると、出音はかなりダイレクトな印象です。
大きく、骨格ががっしりとしています。
キュングと比べると、音量感・反応速度はほぼ同じくらいですが、
周囲に広がるように響くキュングに対して、
このデンナーは遠くの客席まで直線的に音が飛んでいく感じです。
このあたり、肉厚で重量のある楽器本体の構造が効いています。
楽器を構えたときの印象は、キュングよりもデンナーのほうがズッシリときます。
ウィンドウェイは、キュングに比べてかなりコンパクトです。
その分、比較的少ない息で安定したロングトーンを出せるようにはなっています。
ただし、誤解のないように付け足すと、
これは全長1m半もある大きな楽器なので、しっかり鳴らすには、それなりの下腹の支えは要求されます。
ちなみに、ヘッドキャップをどの方向に回転させても音は鳴るので(音質は変わりますが)、どの方向からでも呼気を通す最低限の内容積は確保されているようです。
エンドピンが付属しており、立奏・座奏ともに大変演奏しやすくなっています。
首から吊り下げるストラップも長さ調整のしやすさはピカイチです。
ただし、ヘッドキャップがほぼ「木の塊」なので、頭部が重く、その分、重心が上のほうに寄っています。
ストラップで吊り下げたときの楽器の安定性は、キュングに譲ります。
それから、前述の特殊な構造ゆえ、比較的結露の影響を受けやすいです。
冬場の結露対策(特に吹き込み管の保温)はしっかりしましょう。
キーシステムについては、
同じ高さの音を複数の指遣いで出せるように工夫されています。
これにより、さまざまな音量や微妙なピッチ調整ができるようになっています。
総じて、大変扱いやすく、音も良い楽器です。
これ一本入るだけで、アンサンブルの重心がぐっと下がり、安定したサウンドになること間違いなしです。
決して安い価格ではありませんが、導入するだけの価値は十分にあります。
グループに一本、いかがでしょうか。